現在の住宅の大半は、工期短縮のために、全ての工程が現場で行われず、工場で加工された材料を現場で組立てて完成する建物が多いです。これがプレカット工法です。
本来の在来工法は、手間がかかり、大工の技量を問われる「墨付け」を行います。なかなか目に見えない部分ですが、住宅の骨の部分を揃え、どう組み合わせるかを進める中、木材を選別し、捩れ、曲がり、歪みを調整し、付けた墨に沿って「手刻み」へと進めます。
「手刻み」完了後、現場で組立れば、めでたく上棟、棟上となります。
時間も手間もかかる作業ですから、工期短縮、コスト削減を求めると、まったく逆の工法になります。
過去に何棟かプレカットで工事を経験しましたが、その度に、上棟の工程で組み合わせる部分(接合部)の甘さには驚かされます。
甘さとは、接合部の加工で『雄(オス)』となる部分と、『雌(メス)』となる切り込みの大きさが違うのでは?と不安に思うほど、すんなり入ってしまうことです。もちろん、補強金物で引っ張れば、抜ける事、はずれる事は、無くなりますが、今の在来工法は、木材は「従」となり補強金物が「主」になってしまう事が当たり前になっています。
わが社でも法律により必要な金物補強は行いますが、基本的に金物補強をしなくても接合部分が外れない造りをしております。
現代住宅の強度は、金物補強によって実現しており、大工の技量がある一定のレベルに有るか無いかを確認するすべがありません。それ故、「適切に補強金物が取り付けてあるかどうかを検査をする必要がある」と、中間検査時の検査員から聞いた事があります。要するに、本来の在来工法の歴史、伝統、大工の技術と言ったこととは、まったく関係の無い部分で、住宅検査が行われ、手の付けようが無いものを何とか1つの基準の中に収め、検査済書のを出しているわけです。
わが社では、請負工事、分譲住宅に関わらず、原則、「墨付」「手刻み」を行っています。
「墨付」「手刻み」は、住宅の新築においては、決して無駄にはなりません。
木材は、規格製品化された後も生き続け、含水率、つまり内部に水分を持つ事で本来の耐力を維持しています。木材には、天然乾燥と人工乾燥の二種類があり、工程短縮による建築後の木材の収縮、変形を防ぐためしにくくする人工乾燥された構造材を使用します。
機械的に乾燥された木材は、含水率の測定器で測定すると、確かに基準値内になってはいますが、出荷する地域や環境によって変化してしまうのです。 ですから、建物を建てる地域や環境の特性に合った馴染ませ方が大切で、建物を建てる場所で、木材を一定の時間放置(天然乾燥)する事が望ましいのです。
大工の手作業による「墨付」「手刻み」は、日数がかかりますが、その間にしっかりと木材を馴染ませることができるので、工事完了後の構造材の変形を防ぐことができます。